4月の恐怖イベント、それは「引き継ぎ」
人事異動の内示が出た瞬間、頭に浮かぶのは新しい部署のことじゃなくて「引き継ぎ資料どうしよう……」だと思う。
自分がやっている業務を、後任の人に分かるように文書化する。言葉にすると簡単だけど、実際にやると半日どころか丸一日かかることもある。「そもそも自分って何の仕事してたっけ?」という根本的な問いに立ち返るところからスタートするから余計に大変だ。
そこで今回、ChatGPTとClaudeに引き継ぎ資料づくりを手伝ってもらったので、そのやり方と結果を共有したい。
ステップ1:まず「業務の棚卸し」をAIに壁打ちしてもらう
最初にやったのは、自分の業務を洗い出す作業だ。これが一番つらい。ノートに書き出そうとしても「あれ、月末にやってるあの作業なんだっけ……」と止まってしまう。この「業務の棚卸し」は引き継ぎに限らず役立つ工程で、同じやり方はAIで業務改善のアイデアを出すときにもそのまま応用できる。
そこでAIにこう聞いてみた。
プロンプト例 「私は営業部の事務担当です。以下の業務をしています。抜け漏れがないか確認しつつ、引き継ぎに必要な項目を整理してください。 ・受注データの入力 ・月末の売上集計 ・見積書の作成 ・郵便物の仕分け」
すると、AIが「請求書の発行は含まれていませんか?」「備品の発注はどうですか?」と逆質問してくれる。これがめちゃくちゃ助かった。自分では当たり前すぎて忘れていた業務を思い出せるのだ。
ChatGPTは質問リストを一気にバーッと出してくれるタイプ。抜け漏れのチェックリストとして優秀だった。Claudeは「それぞれの業務の頻度(毎日/週次/月次)も書いておくと後任の方が助かりますよ」とアドバイスをくれて、構成面の提案が丁寧だった。
つまり引き継ぎの最初の一歩は、いきなり完成した資料を書くことではなく、AIに逆質問させて「当たり前すぎて言葉にしていない業務」を引きずり出すことだ。ここさえ壁打ちで抜けをなくしておけば、このあとの資料づくりはぐっと楽になる。
ステップ2:手順書のたたき台を作ってもらう
棚卸しができたら、次は個々の業務の手順書だ。自分の頭の中にある手順をざっくり箇条書きにして、AIに渡す。
プロンプト例 「以下の手順をもとに、初めてこの業務をやる人が読んでも分かるように手順書を書いてください。
- 共有フォルダの受注一覧を開く
- メールで届いた注文内容を入力する
- 入力が終わったら上長にメールで報告する」
たった3行のメモが、AIの手で画面の操作手順やつまずきやすいポイント付きの手順書に変わった。「共有フォルダのパスを明記しておくと安心です」「入力ミスが起きやすい項目はどこですか?」と聞いてくれるので、やり取りしながら精度を上げていける。
ここでのコツは、一度に全業務を渡さず、1つずつ頼むこと。AIに一気に10業務分の手順書を頼むと、どうしても各手順が薄くなる。1業務ずつ「これで後任が困らないかな?」と確認しながら進めれば、画面の操作手順やつまずきやすいポイントまで書き込んだ、実戦で使える手順書に仕上がっていく。手順書で共有フォルダのパスを書くなら、その前に散らかったファイルをAIの提案した整理ルールで片付けておくと、後任が迷わずファイルにたどり着ける。
また、各業務に目安の所要時間を添えておくと後任が段取りを立てやすい。時間の見当がつかないときはAIに作業時間を見積もってもらうと、現実的な数字を書き添えられる。手順が複雑で文章だと伝わりにくい業務は、業務フローチャートをAIに作ってもらうと、後任の理解が一気に早まる。
ステップ3:「よくあるトラブル」も聞き出してもらう
引き継ぎ資料で後任が一番ありがたいのは、実は手順そのものじゃなくて**「困ったときにどうするか」**の情報だったりする。
プロンプト例 「この業務で過去に起きたトラブルや、後任が困りそうなポイントを洗い出したいです。以下の手順について、想定されるトラブルを質問してください。」
AIが「システムがエラーになった場合の対処は?」「担当者が不在のとき、代わりに誰に聞けばいい?」と質問してくれるので、それに答えていくだけでFAQ形式のトラブルシューティング集が出来上がる。
これを手順書の末尾に付けておくと、後任の人が「聞きたいけど異動した前任に連絡しづらい……」という事態を防げる。
実際どれくらい時短できた?
| 作業 | AI なし | AI あり |
|---|---|---|
| 業務の棚卸し | 2時間 | 30分 |
| 手順書作成(5業務分) | 4時間 | 1時間 |
| トラブル集作成 | 1時間 | 20分 |
| 合計 | 7時間 | 約2時間 |
体感で作業時間が3分の1以下になった。特に最初の棚卸しでAIに壁打ちしてもらえるのが大きい。「なんとなく分かってるけど言語化できない」状態を、対話で引き出してもらえるのはAIならではの強みだ。
注意点:社内の機密情報の扱い
引き継ぎ資料には、社内システムのURLやパスワードの保管場所など機密性の高い情報が含まれがちだ。AIに渡すときは以下に気をつけよう。
- パスワードや認証情報はAIに入力しない(「パスワードは○○に保管」という記載だけ手動で追記する)
- 顧客の個人情報はダミーに置き換えてから渡す
- 社内ルールでAI利用が禁止されていないか確認する
「手順の構成を考えてもらう」段階では機密情報を渡す必要がないので、上手に切り分けて活用しよう。具体的には、パスワードや認証情報そのものは打ち込まず「保管場所は○○」という書き方だけ手で足す、顧客名などはダミーに置き換える、といった線引きを徹底する。これさえ守れば、機密を守りながらAIの下書き力だけを借りられる。
引き継ぎ資料づくりが大変なのは、毎日やっていることほど、いざ他人に説明しようとすると客観的に整理しづらいからだ。完璧な資料をAIが丸ごと自動で仕上げてくれるわけではないが、たたき台を自分で作ってAIと対話しながら磨いていく流れなら、「それ、後任の人にも伝わりますか?」と第三者の目線でツッコんでもらいながら、短時間でかなり実用的な資料にできる。内示が出てから慌てないためにも、異動シーズンの今こそ、議事録やマニュアルなど他の社内文書をAIで速くまとめるコツをまとめたAIで資料作成・議事録を片づける完全ガイドともあわせて、ぜひ一度試してみてほしい。