稟議書、何回も差し戻されていませんか

備品の購入、システムの導入、外注先の変更——。会社で何かを始めるには、だいたい稟議書が必要になる。

書くこと自体はそこまで難しくない。でも「この金額で通るのか」「比較検討はちゃんと書けているか」「上司が気にするポイントを押さえられているか」と考えているうちに、気づけば1時間以上かかっていたりする。

しかも、提出したら「理由が弱い」「他社との比較がない」と差し戻されて、また書き直し。正直、稟議書だけで半日つぶれることもあった。

そんなとき、AIに「稟議書の構成を考えて」と頼んでみたら、驚くほどスムーズに書けるようになった。

情報は揃っているのに「通る書き方」で詰まる

稟議書で苦労するポイントを整理すると、だいたい3つに絞られる。

  1. 「なぜ必要か」の説得力が足りない:自分では分かっているのに、文章にすると薄くなる
  2. 比較検討の書き方が分からない:3社見積もりを取っても、どう表にまとめればいいか迷う
  3. 金額の妥当性をどう示すか:「高い」と言われたとき、どう返せばいいか分からない

要は、情報は揃っているのに、決裁者を納得させる「書き方」で詰まっている。ここをAIに手伝ってもらうと、一気に楽になる。

なお、外注先の変更やシステム導入のように契約書がからむ稟議では、契約書や利用規約をAIでチェックしておくと、決裁が下りたあとの手戻りを防ぎやすい。

素材をそのまま渡して4項目で構成させる

ポイントは「素材をそのまま渡して、構成を作ってもらう」こと。

こんなプロンプトを送る。

「以下の情報をもとに、社内稟議書の本文を作成してください。目的・背景、比較検討、費用対効果、リスクと対策の4項目で構成してください。」

その下に、自分が持っている情報をメモ書きレベルで貼り付ける。

・業務用プリンターの買い替え
・今のプリンターは5年使っていて修理が年3回ペース
・修理費が年間12万円くらいかかっている
・候補はA社(35万円)、B社(28万円)、C社(40万円)
・B社は印刷速度が遅い、C社は保守が手厚い
・月間印刷枚数は約8,000枚
・予算は40万円以内

これだけで、整った稟議書の本文が出てくる。渡すのは自分が持っている情報をメモ書きレベルにしたものでよく、きれいな文章に整える必要はない。目的・背景、比較検討、費用対効果、リスクと対策の4項目を指定しておくと、比較表まで含めた提出前提の本文がそろって返ってくる。

実際にやってみた結果

上の情報をChatGPT・Claude・Copilotに投げて比較してみた。

ChatGPTの場合

【稟議書】
件名:業務用プリンター買い替えの件

■ 目的・背景
現在使用中の業務用プリンターは導入から5年が経過し、
年間3回の修理が発生している状況です。修理費用は
年間約12万円に達しており、今後さらに故障頻度が
増加する見込みです。業務効率の維持と修繕費削減の
ため、新規プリンターへの買い替えを提案いたします。

■ 比較検討
| 項目       | A社      | B社      | C社      |
|-----------|---------|---------|---------|
| 価格       | 35万円   | 28万円   | 40万円   |
| 印刷速度    | ◎       | △       | ○       |
| 保守サービス | ○       | ○       | ◎       |
| 総合評価    | ★推奨   | —       | 次点     |

■ 費用対効果
A社製品を導入した場合、修理費年間12万円が不要と
なるため、約3年で投資回収が見込めます。

■ リスクと対策
導入時の業務停止リスク → 土日での設置・切替を実施
旧機種の廃棄費用 → メーカー下取りサービスを活用

比較表まで自動で作ってくれた。決裁者が一番見たい「なぜこの会社を選んだのか」がひと目で分かる。

Claudeの場合

【稟議書】
件名:業務用プリンター更新に関する稟議

1. 目的・背景
現行プリンター(導入後5年経過)の故障が常態化して
おり、年間修理回数3回・修理費約12万円が継続発生
しています。月間印刷枚数8,000枚の業務量を安定的に
処理するため、計画的な機器更新を提案します。

2. 比較検討(3社見積取得済み)
・A社(35万円):印刷速度・品質ともに十分。
  標準保守プラン付属。バランスの取れた選択肢。
・B社(28万円):最安だが印刷速度が遅く、
  月8,000枚の処理に支障が出る懸念あり。
・C社(40万円):保守サービスが最も充実している
  一方、予算上限と同額のため余裕がない。

→ 総合的に判断し、A社を推奨します。

3. 費用対効果
年間修理費12万円の削減により、A社製品(35万円)は
約2年11か月で投資回収が可能です。加えて、故障に
伴う業務停止時間の削減も期待できます。

4. リスクと対策
・設置作業による業務中断:休業日に設置を実施
・初期不良の可能性:メーカー保証期間内で対応

Claudeは「なぜB社とC社を選ばないのか」の理由を丁寧に書いてくれた。差し戻しで聞かれがちなポイントを先回りしてカバーしている印象。

Copilotの場合

稟議書
件名:業務用プリンター買い替えについて

【目的・背景】
使用中のプリンターは導入5年目を迎え、年3回の故障が
発生しています。修理費は年間12万円に上り、修理中の
業務への影響も無視できない状況です。安定した印刷
環境を確保するため、新規機器の導入を申請します。

【比較検討】
3社から見積もりを取得し、以下のとおり比較しました。
- A社(35万円):速度・コストのバランスが良い(推奨)
- B社(28万円):低価格だが速度面で不安あり
- C社(40万円):保守充実も予算上限いっぱい

【費用対効果】
修理費12万円/年の削減効果あり。約3年で投資回収。

【リスク】
切替時の業務停止は休日作業で回避します。

Copilotはコンパクトにまとまっている。「とりあえず形を整えたい」という場面で使いやすい。稟議書に限らず、Copilotを事務作業全般でどう使い分けるかはMicrosoft Copilot 事務職の活用ガイドにまとめている。

同じ素材でも3つで個性が出るのが面白いところで、比較表を自動で作ってほしいならChatGPT、「なぜ他社を選ばないのか」まで理由を書き込んでほしいならClaude、短く形だけ整えたいならCopilot、と場面で選ぶといい。

さらに精度を上げるコツ

コツ1:決裁者のタイプを伝える

上司によって気にするポイントは違う。プロンプトに一言添えるだけで、書き方が変わる。

  • 「決裁者はコスト重視の部長です」→ 費用対効果が手厚くなる
  • 「社長決裁なので経営視点で書いてください」→ 中長期的な効果を強調してくれる
  • 「ITに詳しくない管理職向けです」→ 専門用語を避けた表現にしてくれる

コツ2:過去に差し戻された理由を共有する

「前回、比較が2社しかなくて差し戻されました」と伝えると、AIは3社以上の比較を丁寧に書いてくれる。自分の弱点をAIに教えると、そこを重点的にフォローしてくれるのが便利。

コツ3:金額の根拠を具体的に入れる

「だいたい30万くらい」ではなく「税込35万円(見積書番号:〇〇)」と入れると、AIもそのまま具体的な数字で書いてくれる。決裁者にとって、数字があいまいな稟議書は不安材料になる。見積もりや費用の内訳を表にまとめて添えたいときは、予算管理表をAIで作る方法を併用すると、稟議書に載せる数字の説得力がさらに増す。

やってはいけないこと

AIに頼むとつい全部お任せしたくなるが、事実確認は必ず自分でやる。

  • 見積もり金額が正しいか(AIは数字を丸めることがある)
  • 会社名・製品名にミスがないか
  • 社内の稟議フォーマットに合っているか

AIが作るのはあくまで「たたき台」。とくに見積もり金額はAIが数字を丸めてしまうことがあるので、原本の見積書と突き合わせて確認したい。会社名・製品名の表記ミスや、社内の稟議フォーマットとのズレも、提出前に自分の目で潰しておく。最終チェックは自分の仕事だと思って使うのがちょうどいい。

大変なのは中身より「通る形に整える」ところだった

稟議書の作成にAIを使ってみて分かったのは、書く内容は自分が一番分かっているということ。ただ、それを「通る形」に整えるのが大変だっただけだ。

構成をAIに任せることで、自分は「情報を集める」と「最終チェックする」という自分にしかできない部分に集中できるようになった。おかげで稟議書1本にかかる時間は、体感で半分以下になった。手が動くようになるのは中身が変わったからではなく、書き方の壁が消えたからだ。差し戻しが多くて悩んでいる人こそ、一度試してみてほしい。